Step4
囲碁の入門用として、王銘琬九段が提案されている「純碁」というものがあります。 この純碁は、基本的なルールは囲碁と同じで、ゲームの目的、つまり勝敗を判定する方法だけが囲碁と異なります。(詳細は純碁 10分で覚えられる囲碁を参照してください。) 実は丼碁(ザル碁)も同様で、勝敗の判定方法以外のルールは共通です。 丼碁(ザル碁)と純碁のルールの違いを確認しておきます。 (囲碁のルールとの比較は次のコーナーで扱います。) 共通ルール。 ・碁盤に引かれた線の交点に、黒白交互に石を置く。 ・一度置いた石は動かせない。 ・相手の石を囲めば取れる。 ・コウはすぐに取り返せない。 丼碁(ザル碁)の勝敗判定ルール。 ・石を沢山取った方が勝ち。 純碁の勝敗判定ルール。 ・石を沢山置いた方が勝ち。 要するに、双方の手元にある石の数を比べるか、盤上にある双方の石の数を比べるかの違いです。 では具体的に見ていきましょう。 話を簡単にするために、5路盤で考えます。 |
図4-5![]() |
5路盤の実戦例です。 いま、白が20を打ったところです。 |
図4-6![]() |
次は黒番で、左上方面の空点に打つ余地があります。 しかし白は、左上の黒の勢力圏に打てないことはないのですが、打っただけ取られてしまうことは明らかで、実質もう次に打つ所がありません。 |
図4-7![]() |
ではまず、丼碁(ザル碁)ルールで考えます。 黒が左図のように3手打つ間、白は打つ所がありませんから3回パスをし、ペナルティとして計3個の白石を黒さんに渡します。 で、とうとう黒も打つところが無くなり、白さんに黒石を1個渡してパスです。 白パスと黒パスが連続したので終局です。 |
さて、勝敗はどうなっているでしょうか。 黒さんは、B2に有った白石1個を17手目で取っています。また上図の黒1~3までの間に白がパスのペナルティとして渡した3個の白石を持っています。黒さんは白石を合計4個取りました。 白さんは、D2に有った黒石1個を10手目で取っています。そして、黒が最後にパスした時に、ペナルティとして渡した1個の黒石を持っています。白さんは黒石を合計2個取りました。 結局、黒さんが2個多く石を取って勝ちです。 では次に純碁ではどうでしょうか。 |
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図4-8![]() |
純碁では、取った石は勝敗の判定に関係ないので、パスによるペナルティは有りません。 (それどころか、途中で取った石も相手に返してしまいます。) 図4-7の手続きを盤面だけ見ていれば、純碁も丼碁(ザル碁)も、なんら変わりありません。 最後の姿は同じですが、純碁の勝敗判定は盤面の石数の差によります。 盤面の黒石は12個、白石は9個です。 結局、黒さんが3個多く石を置いて勝ちです。 |
「○」は盤上に残った石を、 「×」は取られた石を、 「◎」は勝敗に影響する着点がなくなった時点以降に、自陣を埋めた石を、 「P」はパスを表します。 |
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手番 | 1 | 3 | 5 | 7 | 9 | 11 | 13 | 15 | 17 | 19 | 21 | 23 | 25 | 27 |
黒 | ○ | ○ | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | P |
白 | × | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | P | P | P | |
手番 | 2 | 4 | 6 | 8 | 10 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 | 22 | 24 | 26 |
要するに、黒白それぞれについて、丼碁(ザル碁)では「×」と「P」の合計(手元の石数)を、純碁では「○」と「◎」の合計(盤上の石数)を数え、その差で勝敗を判定していることになります。 一見違うものを数えているようですが、盤上の石と手元の石の合計は総手数(パスも手数に加える)ですから、どちらを数えても同様な結果が得られるのでした。 数式で確認しておきます。(数式の苦手な人は無視してください。) [丼碁(ザル碁)の計算] 黒の得点 = 白×石 + 白P石 白の得点 = 黒×石 + 黒P石 得点差 = 白×石 + 白P石 - 黒×石 - 黒P石 [純碁の計算] 黒の得点 = 黒○石 + 黒◎石 白の得点 = 白○石 得点差 = 黒○石 + 黒◎石 - 白○石 ところで、上の表では 黒の手数 = 黒○石 + 黒×石 + 黒◎石 + 黒P石 白の手数 = 白○石 + 白×石 + 白P石 ですが、黒と白は交互に着手していますから、最後の「黒P石=1個」を考慮すると 黒の手数 = 白の手数 + 1 なので、 黒○石 + 黒×石 + 黒◎石 + 黒P石 = 白○石 + 白×石 + 白P石 + 1 となり、左辺と右辺の項目を入れ替えて、 黒○石 + 黒◎石 - 白○石 = 白×石 + 白P石 - 黒×石 -黒P石 + 1 です。これは、 純碁の得点差 = 丼碁(ザル碁)の得点差 + 1 となります。 この例では得点差に1ポイント違いがでましたが、これはたまたま最後のパスが黒の番になったからで、もし白が最後のパスをするような場合は、純碁も丼碁(ザル碁)も全く同じ結果になります。 数式が苦手な人は結論だけ覚えておいて下さい。 純碁の計算でも丼碁(ザル碁)の計算でも本質的には同じということです。 丼碁(ザル碁)では「沢山取れるように打つ」作戦を立て、純碁では「沢山置けるように打つ」作戦を立てて戦うわけですが、「沢山取る」と「沢山置く」は表現が違うだけで同じテーマだと言えます。 丼碁(ザル碁)は石を多く取ることが目的であるために、ただひたすら相手の石を追いかけ回す作戦になりがちです。しかし、それだけではなかなかうまく行かなくなってきます。 そこで視点を少し変えて、自分の石だけを置くことができる自分専用の領域を沢山確保する、つまり、「広い自陣を持つことを目指す純碁的感覚」を発想に加えることが出来れば、作戦の幅がグンと広がることでしょう。 |
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