勝手読み



太 閤 碁




 16世紀後半のある日の出来事です。日蓮宗の僧侶である日海(後の初代本因坊算砂)が豊臣秀吉に請われて碁を打つことになり、秀吉が先で第一着を天元に打ち、3手目以降は日海の打った石の天元を挟んだ対角の位置に打ち続け、結局秀吉が勝ってしまいました。この真偽の程が甚だ怪しい逸話から、太閤秀吉が考え出した作戦と言う意味で、マネ碁のことを「太閤碁」と呼んだりします。

 プロ同士の有名なマネ碁としては、昭和4年の呉清源vs木谷実があります。先番の呉先生が第一着を天元に打ちマネ碁となり、結果は呉先生の勝ちとなりました。新布石時代幕開け前夜の様々な実験の一つだったのでしょうか。

 また、白番のマネ碁では、今は亡き藤沢朋斎先生が有名でした。まだお元気だった頃、テレビの早碁で白番マネ碁を初めて知り、強い印象を持ったのを覚えています。

 「マネ碁」と言うとあまり良くない印象を持つ人も少なくないと思います。実際私もマネする側とマネされる側の両方を経験しましたが、確かにあまり楽しくないと言うのが正直な感想です。「マネしてる・されてる」というのが、どうも感情的に受け入れ難いものにしている様です。

 しかし、「見合い」の考え方を最も端的に実現しているのがマネ碁だと考えると、感情的な問題は別として、「マネ碁」も立派な作戦と言えるのではないかとも思うのです。

 ところで、昔一度やってみたいと思っていたマネ碁があります。結局度胸が無くて実行に移せませんでしたが、それは、

  「
置き碁のマネ碁」です。

 またなんとバカな事をとお考えの方もいらっしゃるでしょう。全くその通りで、「置き碁のマネ碁」は決してうまくいきません。しかし、なぜうまくいかないのかを考えることが、普通に打つときに手を選ぶヒントになるのではないかと考え敢えて取り上げてみることにしました。


 下の図は9子局でのマネ碁の想定図です。

図1
 白は右上に1と掛かります。黒は2とマネします。

 白は3と両掛かりしました。黒はやはり4とマネします。

 続いて白は5です。この後黒6とマネしますが、そろそろ白は気が付きそうです。

 白は試しに7と打ってみました。すると黒は8とマネしてきました。

もし白さんが気の短い人であれば、嫌な顔をされ、その後2度と相手をしてくれないかもしれません。

 さて、皆さんはここまでの進行を見てどう思いますか?

   白1に黒2、これはいいでしょう、マネすると決めた訳ですから。
   白3に黒4、まぁ、これも良しとしましょう。
   白5に黒6、このあたりからおかしくなってきました。
   白7に黒8、この交換で黒は一体何を得たのでしょうか。

 そもそもマネ碁作戦とは、「見合い」の点に打ち続ける事を狙っているはずでした。しかし、白5と黒6の価値は全然釣り合っていないのです。白7と黒8の差はもっと激しい。黒8はほとんど一手パスに近い手です。(もしかしたらマイナスかもしれない)

 確かに位置的には対称の点に打っていても、そこにもともと存在する置き石によりかえって一手の価値が下がってしまうのです。

 9子局で始めたはずが、たった8手で既に7子局くらいに差が縮まっています。

 上図ではまだ分かりにくいと言う方のために、白さんにお願いして続きを打ってもらいましょう。

図2

 黒がマネしてくることが分かっているので、白は置き石3個をポン抜いてしまいました。

 その間黒は団子石を作っただけです。

 それでもまだ黒は天元の置き石の分だけリードしていると思いこんでいます。

 でも実際には、次は白の手番ですし、もうとっくに置き石の効果は消えているんですけど、黒はそれに気づいていません。
図3
 白は最後の置き石、天元を取りに行きます。

 「ヒカルの碁」にも登場した、良く知られたマネ碁破りです。

 天元の石にペタッと付け、上下に一つずつノビます。
図4
 後はダメを順に詰め、黒5子を打ち上げてしまいました。


 もちろん黒はこの後もマネを続けることは可能ですが、形勢は既に大差です。

 ここまで来れば「置き碁のマネ碁」が成立しないことは誰の目にも明らかです。

 では、なぜうまく行かなかったのか、理由を考えてみましょう。

  
1.黒は白の注文通りに打っている。
     黒はマネすると決めているので、次の着点は白の言いなりです。
     その結果、
  
2.黒は自らの手で置き石の活力を奪っている。
     すでに有る石と重複する手を打たされ、一手の価値を下げている。

 あれっ?、この二つとも、しょっちゅう注意されてる事じゃないか。

 そうなんですねぇ、普段打っているときは図4の様な誰にも分かるハッキリした姿にならないだけで、おそらく本質的には同じことをやっているんです。

  ・石音のした方に手が伸びる。
  ・ツケられればハネる。
  ・切られればノビる。
  ・ノゾキにはツグ。
  ・アテられれば逃げる。
  などなど。

 いつのまにか働きが乏しい石の形に誘導されて置き石の効果が消されてしまう。こんな経験ありませんか?


 ということで、本日のホントのテーマ。

 ※強くなるための提言(次の一手を選ぶヒント)

  まず手を抜く事から考える。(これ、どっかで聞いたような気が・・・)

  具体的には、
    ・ツケられてもハネない。
    ・キラれてもノビない。
    ・ノゾキにツガない。
    ・アテには逃げない。
   そして、
    ・別の場所に手を探す。


 碁はマネ碁に限らず普通の碁でも「見合い」の追求だと思うのです。つまり、相手の打った手と価値の釣り合う手を探すのが基本だと思うのです。が、実際の対局ではなかなかそう上手くは行きません。
でも、上の提言を心掛けていれば、そのうち少しずついい手が見つかるようになるかもしれません。

(注)上の提言を取り入れて頂いた結果、ボロボロに負かされたとしても当方は一切関知しません。


前ページ 勝手読みメニュー 次ページ