勝手読み
第六条(劫) 交互に相手方の石一個を取り返し得る形を「劫」という。劫を取られた方は、次の着手でその劫を取り返すことはできない。 この条文の前半はコウの定義、後半はコウに関する着手制限を規定しています。いたって簡明な文章で解釈の余地はなさそうに見えます。 ところで、私たちがコウの説明を初めて受けたときのことを思い出して下さい。あるいは、あなたが誰かにコウの説明をするときのことを思い起こして下さい。 コウとは何か、つまりコウの定義についてはこの条文の前半と同じ内容を碁盤に実際に形を作って説明するでしょう。で、次にコウの着手制限の説明に移る訳ですが、大抵は次の様な説明になります。 コウは取られた所を直ぐに取り返してはいけない。まず何処かにコウダテを打ち、相手がそれに応えてくれたら、コウを取り返してよい。なぜなら、コウダテを打たずに互いに取り返し合っていたら同じ形の繰り返しになって、永遠に終わらなくなってしまうから。 如何でしょう、自分は上のとは違う説明を受けたと言う人はいらっしゃるでしょうか。もしいらっしゃれば、どんな内容だったのか参考の為に是非教えて下さい。 さて、上の条文ですが、我々が普段コウを説明するにあたって外すことが出来ないと思いこんでいる二つの事柄について一切触れていないことに気が付きます。 一つはコウダテ、 二つ目は同型反復の回避です。 もっとも、第六条はコウについての規定であってそれ以上の役割は無いので、着手制限の理由についてまでわざわざ触れる必要は無く、条文の中に「同型反復」について書かれていないのは当然のことかもしれません。また、同型反復の扱いについては別に条文(第十二条「無勝負」)がありますので、その件については第十二条でまた扱いたいと思います。 しかし、コウダテについては確認しておく必要があるでしょう。 第六条にはコウを取り返す為にはコウダテが必要だとは書いてありません。ということは、コウダテを打たずにコウを取り返すことも可能だと言うことです。ただし「次の着手」では取り返せませんけどね。 では、どんな状況でそんな事が起こり得るのか、を少し考えてみましょう。 |
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図1![]() |
この図はプロローグでご紹介した問題図ですが、G6とJ4のダメを詰めたものです。 ダメが詰まったので、白から隅のコウを始めることが出来ます。 |
図2![]() |
白1とコウを始めました。 さて、黒はどう対応したらいいでしょう。コウダテは左下隅に一つ有るだけです。 ところで右上の形ですが、今黒がこのコウを譲ったとしても直ぐに黒が取られてしまう訳ではありません。 白が黒を取るためには、もう一つダメが詰まらなければいけません。 つまり、黒にしてみればまだ一手の余裕が有るのです。 このように一手余裕の有るコウを、一手ヨセコウと言います。 そこで、余裕の有る黒は2の手をパスで応じました。 |
図3![]() |
そこで白は3と打ち本物のコウになりました。もう一度繰り返すと、 白1 コウ取り、 黒2 パス、 白3 ダメ詰め(本コウ)。 となりました。 さてここで、黒はアタリを解消する為にはH9の白石を取らなければいけません。 つまり、コウを取り返さなくてはいけないわけですが、第六条の規定はそれを許しているかどうかが問題です。 |
図4![]() |
もう一度流れを見ましょう。 白1 コウ取り、 黒2 パス、 白3 ダメ詰め、 黒4 コウ取り、 となるわけですが、「劫を取られた方は、次の着手でその劫を取り返すことはできない」という規定で、白1の次の黒の着手とは黒2でしょうか、それとも黒4でしょうか。 黒2が次の着手に当たるとすれば黒4のコウ取りは容認されます。しかし、パスは着手放棄であるから着手とは認められないとすると黒4が次の着手と解釈でき、コウ取りは認められなくなってしまいます。 |
第六条の用語を厳密に解釈する立場を取る場合、黒4のコウ取りを認めるというのはかなり無理があるように思います。しかし、私は黒4コウ取りは認められるという立場をとっています。その根拠は二つあります。 一つ目の根拠は、コウのルールはもともと同型反復回避から発生している点を重視したいからです。その観点からは、黒4で同型に成るわけではないので、黒4は当然許されるべきだと考えます。 二つ目の根拠は、日本囲碁規約完全準拠をうたっているWWGoルールです。 (WWGoはパンダネットに事業譲渡された後ルールページはなくなり、現在確認できません) このルールでは日本囲碁規約の表現の曖昧な部分が改善されており、コウについては 双方が相手方の同一着点の石一子を、交互に取り返し得る形を「劫」といい、取り合う石を「劫石」という。劫石を取られた方は、次の着手権をもってその劫石を取り返すことはできない。 とあります。なるほど、次の着手権であれば黒2がそれに当たりますから、黒4での取り返しは認められることになります。 本コウではありえないことですが、ヨセコウでしかも終局間際のためパスが最善で有る場合に限り、コウダテを打たなくてもコウを取り返すことがあり得るというお話でした。 今回のテーマは、常識として疑うことなく信じている決まり事であっても、特殊な状況下では例外もあり得るという一例でもありました。 |
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